遠坂が笑いながら、俺の手に古い本を押しつけてくる。[lr]
これも鍋と同じくらい年季が入っていて……[lr]
誰? 遠坂時……永……
付箋の貼ってあるところに作り方が書いてあるから、後はよろしく」[lr]
「待て遠坂。これは何だ?」[lr]
「え? 先祖代々の調合表よ。弟子の貴方だから見せてあげる重要な我が家の……」[lr]
「……いいのか? 俺が作っても」[lr]
遠坂に不安を隠さず訊ねる。
だってそうだろう? 素人の作った免疫抑制剤を、心臓移植の患者に投与するようなものだ。暴挙にも程があ る。[lr]
しかも、それを飲むのは遠坂なのだ。
「書いてあるとおりに作れば大丈夫。わたしだって、小学生の頃に泣く泣く仕込まれたんだし」[lr]
「……だから大丈夫、だと?」[lr]
「これも修行の一環よ衛宮くん。[lr]
つべこべ言わずにやりなさい。出来はわたしが見てあげるから」
「……むう」[lr]
そう言われれば仕方ない。[lr]
小学生の頃に仕込まれた、と言われては負けてはいられない。
「わかった、じゃあ挑戦してみる……うわ、筆書きだ。それも草書……」[lr]
ぺらぺらと黄ばんだ綴じ本を見て思わず呻く。[lr]
遠坂のご先祖さんというのはそんな時代の人だったのか。筆書きにペンの書き込みがあったりとか、如何にも一 族代々の研究ノート然としている。
「そうね、わたしの代で一度編集し直さないと。いい加減保存の限界よね」